駅員(バイト)になろう③ 仕事内容『上』

 仕事内容についてです。

 主に平日朝の時間帯の通勤ラッシュ時間帯でのホーム立ち番です。都心部の通勤戦争を捌きます。

最初のうちは先輩バイトに着いてやり方を学びます。この業界は見習いという文化があり、何か新しい仕事をする時は師匠から教わるのです。そしてしばらくすると独り立ちします。

 これは見るのが一番早いんです。例えば、立つ時は足を揃えない、重心を線路側にしない、旗は一度拡げてから畳んで握り込まないなど、教わることはたくさんありますが、見ながらだとすんなりできるようになります。

 これらは自分の身を守るためにも重要です。足を揃えないや重心の位置はもし後ろから押されても線路内に落ちないようにするため、旗はすぐに拡げられるようにして安全を守るためです。

 作業自体は実に単純です。線路と進路の安全確認→入線してきた電車の車体に不具合がないか確認→停車してドアが開いたら旅客の乗り降りを見守る→発車メロディが鳴ったらドアが閉まると声掛け→車掌がドアを閉めたらきちんと閉まり切っているか確認→車体後ろ側も不具合の確認をして最後に線路を確認…ひたすらこれを繰り返します。

 ただこれだけでは済まないのが浮世です。首都圏に住んでいる方なら朝の時間帯の◯人的な混雑具合は想像に難くないでしょう。そもそも超満員でやってくる電車にこれまた大勢の旅客が乗る訳ですから普通に乗れません。そして、超満員の電車は様々なトラブルを連れてやってきます。

 

 まず体調不良の旅客です。「某駅におきまして救護活動を実施した影響で遅れが生じています…」などというアナウンスを一度は聞いたことがあるでしょう。急いでいる時にこれを聞くと嫌な気持ち(オブラート)になりますよね。もっとも、単なる体調不良なら遅れません。気持ち悪いなと思った旅客が次の駅で降りてベンチで休んで回復したらまた電車に乗り目的地に向かえば何ら運行に影響を与えません。

 しかし、非常停止ボタン(以下「列停」)が押される(扱われる)とそうはいきません。あれを押すと実はかなり大事になります。ここで列停を扱うとどうなるか軽く説明します。まず、列停を扱うと専用の信号が点滅し、ブザー音が鳴り響きます。これを確認した電車は全て非常停止しなければなりません。同時に運転指令と駅の事務所や改札に列停が扱われた事が連絡されます。これを聞いたらスクランブル発進です。現場に着いたらなぜ列停が扱われたのかの原因を究明し、安全確認が完了したら列停を解除して運転が再開されます。指令にも連絡を取らなければなりません。

 このように列停が扱われるとやるべき事が大量にあります。そのためどうしても遅延が生じてしまうのです。

 なお、バイトは列停の解除はできませんし、やるべきではないです。現場に行って事情確認して責任ある地位の社員に伝えることまでが仕事です。たまに旅客からブザーうるさいから止めろなどと言われますが聞こえないふりでもしてやりすごしましょう。勝手にブザー停止させたり、まして復位などした日には最悪解雇です。これは列停とは人命や安全にかかわる事情が発生した際に電車を緊急で止めるためのものであるため、それが解消されたかの判断には重い責任があるからです。

 話を体調不良の旅客に戻すと、これ関係の列停扱いは大抵列停を扱う必要のない程度のものです。たしかに車内で嘔吐した、血を吐いた、意識がないなどは必要性があります。しかし、列停を駅員呼び出しボタンかのように扱われるとこれくらいでよかったと思う一方本来の使い方ではないんだよなとも思います(人身事故かもしれないと覚悟して行って酔客が寝ているだけとか、たいそうなゴ身分ですなとこっそり毒づきます。)。

 体調不良者は夏場に多いです。気温や臭いなどでやられてしまうのでしょう。

 さて、体調不良者にはどう対応すべきか。まずは具合を聞く事です。私は「どうしましたか?」と聞いていました。大丈夫ですか?と聞いても相手は大丈夫かそうでないの2択で答えることとなり、その後状態を聞くのは二度手間ですし、少なくとも大丈夫ではないことは確定しています。ならば自分が今いかなる状態かを聞いて、その後の対応を検討した方が効率的です。ただ休みたいのか、横になりたいのか、救急車を呼んでほしいのかなどその人それぞれに要望はあります。それ次第で動きは変わります。そのまま休みたいと言われれば周囲の状況を確認してその場で休ませていいか判断する(もし危険なら移動をお願いする)、横になりたいと言われれば、体調不良者用のベッドに案内する、救急車を呼ぶなら他の係員と連携して当該旅客の状態監視や救急隊の誘導などをしなければなりません。

 このように、体調不良者の対応だけでもやることはたくさんあるのです。。。

 

 トラブルといえば喧嘩もあります。満員電車とは火薬庫のようなもので触れた触れないなど大した事でなくても火種となりボカンとなるものです。これは対応する係員にも危険が伴います。怒りの矛先がこちらに向いて暴行された、という事例もあるのです。これに対する鉄則は間合いをとることと仲裁しようとは思わないことです。手が届かなければ殴られません。また、気の立っている相手を宥め当事者間の間を取り持つなど警察官などのプロでも難しい行為ですから、何ら権限もテクニックもない我々には到底不可能です。

 私は軽く事情だけ聞いて警察を呼ぶか聞いていました。呼んでくれと言われたら通報し、呼ばなくていいと言われたら今後は離れて乗ってくださいと言っていました。ここで事情を聞くと言っても何があったかを聞くだけで十分です。正直気が立っている人間に何を聞いても無駄です。「こいつが足を踏んだ!」「お前が先に押してきたんだろう!」なんてどうせ平行線ですし、そこでヒートアップして目の前で喧嘩されても面倒です。そもそも警察官などはこういうケースは複数人で対応し、事情を聞く時は当事者同士を離します。しかし、上述の通り我々は原則1人ですからできることには自ずと限界があるのです。離して一方から事情を聞いていたら他方がどこかに行ったとなれば今度はその怒りがこちらに向きます。すると、できることなんてせいぜい上記の通りのことしかないのです。

 

 

長くなったので続きは次回に書きます。